こんにちは、田中恵子です。私自身が1型糖尿病(T1D)患者でもある医師として、今日は患者さんやそのご家族に向けて、最近の医学論文で注目されているある薬についてお話ししたいと思います。難しい言葉はできるだけ避けて、「なぜ体に何が起きているのか」「この薬はどういうしくみか」をわかりやすくお伝えします。
📋 この記事の内容
- 1型糖尿病ってどんな病気? — まず基本から
- なぜ免疫が暴走するのか? — 体の中で起きていること
- 「デュークラバシチニブ」とはどんな薬?
- 1型糖尿病への可能性 — 研究で見えてきたこと
- 今の段階でわかること・わからないこと
- 患者・ご家族へのメッセージ
① 1型糖尿病ってどんな病気?
私が1型糖尿病と診断されたのは20代のことでした。突然のことで、正直とても戸惑いました。「なぜ私が?」という気持ちは、今でもよく覚えています。
1型糖尿病は、「インスリン」というホルモンを作る細胞(膵臓のβ細胞)が、自分の免疫システムによって壊されてしまう病気です。
🔑 ポイント:インスリンは血糖(血液中の糖)を細胞の中に取り込むための「鍵」です。この鍵が作れなくなると、血液中に糖があふれてしまい、体はエネルギーを使えなくなります。
2型糖尿病とは根本的に異なり、1型は生活習慣とは関係なく、免疫の誤作動によって起こります。現在のところ、一度壊れたβ細胞は戻りません。そのため、毎日インスリンを補充する必要があります。子どもでも大人でも発症する可能性があります。
② なぜ免疫が暴走するのか?
免疫システムは本来、ウイルスや細菌から体を守るための「防衛軍」です。ところが1型糖尿病では、この防衛軍が誤って自分の膵臓を攻撃してしまいます。
この攻撃には、「サイトカイン」という小さなタンパク質が深く関わっています。サイトカインは免疫細胞同士が情報を伝えるための「連絡役」のようなものです。
🔬 特に関係が深いサイトカイン
- インターフェロン(IFN):もともとはウイルスを撃退するための物質ですが、1型糖尿病では過剰に働いてβ細胞を傷つけます
- IL-1β(インターロイキン1β):炎症を起こす物質で、インターフェロンと合わさるとβ細胞へのダメージが大きくなります
遺伝的な要因や環境(ウイルス感染など)がきっかけとなり、これらのサイトカインが過剰に分泌されると、免疫細胞がβ細胞を「敵」とみなして攻撃を始めてしまうのです。
③ 「デュークラバシチニブ」とはどんな薬?
デュークラバシチニブ(製品名:ソーティクトゥ)は、2022年にアメリカで、そして日本でも承認された飲み薬です。もともとは「乾癬(かんせん)」という皮膚の炎症性疾患の治療薬として開発されました。
💊 しくみをわかりやすく言うと?
体の中で炎症を広げる「連絡係」の役割をしているタンパク質(TYK2=チロシンキナーゼ2)にブレーキをかける薬です。TYK2が働くと、インターフェロンやIL-12・IL-23などのサイトカインの「命令」が伝わり、免疫が過剰に活性化します。この伝達を止めることで、炎症をおさえます。
従来の免疫抑制剤(JAK阻害薬など)は免疫全体を広く抑えるため、感染症などの副作用が問題になることがありました。デュークラバシチニブはTYK2だけを狙い撃ちにする「ピンポイント」型なので、副作用のリスクが比較的低いとされています。臨床試験では、重篤な感染症や血栓症の発生率が低く、安全性の面でも評価されています。
④ 1型糖尿病への可能性 — 研究で見えてきたこと
ここが、今日一番お伝えしたい部分です。
2025年9月に国際医学雑誌『International Journal of Molecular Sciences』に掲載された総説論文(Mima Y. ら)では、デュークラバシチニブがさまざまな免疫疾患に応用できる可能性が包括的にまとめられました。その中で、1型糖尿病についても言及されています。
研究でわかってきたこと(動物実験・細胞実験レベル)
※ 上記はいずれも動物実験・細胞実験の段階の結果です。ヒトの1型糖尿病患者さんへの臨床試験はまだ行われていません。
⑤ 今の段階でわかること・わからないこと
✅ わかっていること
- TYK2は1型糖尿病の遺伝的リスク因子のひとつである
- インターフェロンはβ細胞破壊に深く関与しており、TYK2がその伝達を担っている
- 動物実験ではTYK2阻害がβ細胞炎症と糖尿病発症を抑えた
- ヒトのβ細胞実験でデュークラバシチニブがβ細胞を保護した
- 乾癬・ループスなど他の免疫疾患では臨床試験での有効性が示されている
- 安全性プロファイルは他のJAK阻害薬より良好
❌ まだ分かっていないこと
- 1型糖尿病の患者さんへの臨床試験はまだ実施されていない
- どの段階(発症前?発症直後?)に使うのが最も効果的かは不明
- 長期的に使い続けた場合の安全性や効果の持続期間は不明
- 既存のインスリン治療との組み合わせ方も今後の課題
つまり、現時点では「とても希望の持てる基礎研究の結果がある」という段階です。今すぐ処方してもらえる薬ではありませんし、「1型糖尿病の薬」として承認されているわけでもありません。でも、科学は確実に前進しています。
⑥ 患者・ご家族へのメッセージ
お子さんが1型糖尿病と診断されたばかりの親御さん、あるいは最近自分が1型糖尿病とわかった方へ。
私も患者のひとりとして、毎日インスリンと向き合いながら生きています。診断を受けたときは、「この先どうなるんだろう」と不安でいっぱいになるものです。その気持ちはとても自然なことです。
でも、医学の研究は確実に進んでいます。今日ご紹介したデュークラバシチニブのような薬が、将来的に1型糖尿病の治療選択肢のひとつになる可能性があります。それはまだ「希望の芽」の段階ですが、確かな芽です。
今できる一番大切なことは、主治医と信頼関係を築き、血糖管理をしながら日々の生活の質を守っていくことです。新しい治療法の情報は、私もこのブログで引き続きお伝えしていきます。
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免疫を知りることも1型糖尿病と上手く付き合って夢を叶えている方の経験や考え方もとても参考になるかと思います。気が向いたらぜひご一読ください。
📗免疫を分かりやすく勉強する本
📕 マンガで免疫を学べる(ノーベル賞受賞者坂口先生が推してる!?)
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P.S.『はたらく細胞』は新たな免疫細胞の発見でノーベル賞を受賞した坂口志文先生が、研究者に関わる記念品として現地で飾られています。ぜひ、楽しみながら日本が誇る免疫リテラシーを深めてください。日本出身の1型糖尿病患者がノーベル賞の受賞する未来を夢見ています。
📚 参考文献
Mima Y, Yamamoto M, Iozumi K. Review of Promising Off-Label Use of Deucravacitinib. Int J Mol Sci. 2025;26(19):9447.
Dos Santos RS, et al. Deucravacitinib, a tyrosine kinase 2 pseudokinase inhibitor, protects human EndoC-βH1 β-cells against proinflammatory insults. Front Immunol. 2023;14:1263926.
Mine K, et al. TYK2 signaling promotes the development of autoreactive CD8+ cytotoxic T lymphocytes and type 1 diabetes. Nat Commun. 2024;15:1337.
※ 本記事は医学論文の内容をもとに一般向けに解説したものです。個別の治療方針については、必ず主治医にご相談ください。本記事の内容は診療の代替となるものではありません。

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