1型糖尿病医師のつぶやき

【人生の可能性は無限大】インスリンさえ打てば、何でもできる。時々医者目線の患者の歩みです。

免疫治療を1型糖尿病治療に!?

こんにちは、田中恵子です。私自身が1型糖尿病(T1D)患者でもある医師として、今日は患者さんやそのご家族に向けて、最近の医学論文で注目されているある薬についてお話ししたいと思います。難しい言葉はできるだけ避けて、「なぜ体に何が起きているのか」「この薬はどういうしくみか」をわかりやすくお伝えします。

📋 この記事の内容

  1. 1型糖尿病ってどんな病気? — まず基本から
  2. なぜ免疫が暴走するのか? — 体の中で起きていること
  3. 「デュークラバシチニブ」とはどんな薬?
  4. 1型糖尿病への可能性 — 研究で見えてきたこと
  5. 今の段階でわかること・わからないこと
  6. 患者・ご家族へのメッセージ

① 1型糖尿病ってどんな病気?

私が1型糖尿病と診断されたのは20代のことでした。突然のことで、正直とても戸惑いました。「なぜ私が?」という気持ちは、今でもよく覚えています。

1型糖尿病は、「インスリン」というホルモンを作る細胞(膵臓のβ細胞)が、自分の免疫システムによって壊されてしまう病気です。

🔑 ポイント:インスリンは血糖(血液中の糖)を細胞の中に取り込むための「鍵」です。この鍵が作れなくなると、血液中に糖があふれてしまい、体はエネルギーを使えなくなります。

2型糖尿病とは根本的に異なり、1型は生活習慣とは関係なく、免疫の誤作動によって起こります。現在のところ、一度壊れたβ細胞は戻りません。そのため、毎日インスリンを補充する必要があります。子どもでも大人でも発症する可能性があります。

② なぜ免疫が暴走するのか?

免疫システムは本来、ウイルスや細菌から体を守るための「防衛軍」です。ところが1型糖尿病では、この防衛軍が誤って自分の膵臓を攻撃してしまいます。

この攻撃には、「サイトカイン」という小さなタンパク質が深く関わっています。サイトカインは免疫細胞同士が情報を伝えるための「連絡役」のようなものです。

🔬 特に関係が深いサイトカイン

  • インターフェロン(IFN):もともとはウイルスを撃退するための物質ですが、1型糖尿病では過剰に働いてβ細胞を傷つけます
  • IL-1β(インターロイキン1β):炎症を起こす物質で、インターフェロンと合わさるとβ細胞へのダメージが大きくなります

遺伝的な要因や環境(ウイルス感染など)がきっかけとなり、これらのサイトカインが過剰に分泌されると、免疫細胞がβ細胞を「敵」とみなして攻撃を始めてしまうのです。

③ 「デュークラバシチニブ」とはどんな薬?

デュークラバシチニブ(製品名:ソーティクトゥ)は、2022年にアメリカで、そして日本でも承認された飲み薬です。もともとは「乾癬(かんせん)」という皮膚の炎症性疾患の治療薬として開発されました。

💊 しくみをわかりやすく言うと?

体の中で炎症を広げる「連絡係」の役割をしているタンパク質(TYK2=チロシンキナーゼ2)にブレーキをかける薬です。TYK2が働くと、インターフェロンやIL-12・IL-23などのサイトカインの「命令」が伝わり、免疫が過剰に活性化します。この伝達を止めることで、炎症をおさえます。

従来の免疫抑制剤(JAK阻害薬など)は免疫全体を広く抑えるため、感染症などの副作用が問題になることがありました。デュークラバシチニブはTYK2だけを狙い撃ちにする「ピンポイント」型なので、副作用のリスクが比較的低いとされています。臨床試験では、重篤な感染症や血栓症の発生率が低く、安全性の面でも評価されています。

④ 1型糖尿病への可能性 — 研究で見えてきたこと

ここが、今日一番お伝えしたい部分です。

2025年9月に国際医学雑誌『International Journal of Molecular Sciences』に掲載された総説論文(Mima Y. ら)では、デュークラバシチニブがさまざまな免疫疾患に応用できる可能性が包括的にまとめられました。その中で、1型糖尿病についても言及されています。

研究でわかってきたこと(動物実験・細胞実験レベル)

🧪 ポイント① TYK2は1型糖尿病の「リスク遺伝子」のひとつ
大規模な遺伝子研究(ゲノムワイド関連解析)によって、TYK2遺伝子のある変異を持つ人は1型糖尿病になりやすいことが明らかになっています。つまり、TYK2はこの病気と遺伝的なレベルでつながっているのです。
🧪 ポイント② マウス実験でβ細胞への攻撃が抑えられた
1型糖尿病を自然発症するマウスを使った実験で、TYK2を選択的に阻害する薬(BMS-986165、デュークラバシチニブと同じ系統の薬)を投与したところ、β細胞への免疫攻撃が抑えられ、糖尿病の発症が遅れたことが報告されています。
🧪 ポイント③ ヒトのβ細胞をデュークラバシチニブが守った
ヒトのβ細胞(EndoC-βH1株)を使った細胞実験で、デュークラバシチニブを投与することで、炎症性サイトカインによるβ細胞のダメージが抑えられ、細胞の生存率と機能が保たれることが示されました。これは非常に重要な発見です。

※ 上記はいずれも動物実験・細胞実験の段階の結果です。ヒトの1型糖尿病患者さんへの臨床試験はまだ行われていません。

⑤ 今の段階でわかること・わからないこと

✅ わかっていること

  • TYK2は1型糖尿病の遺伝的リスク因子のひとつである
  • インターフェロンはβ細胞破壊に深く関与しており、TYK2がその伝達を担っている
  • 動物実験ではTYK2阻害がβ細胞炎症と糖尿病発症を抑えた
  • ヒトのβ細胞実験でデュークラバシチニブがβ細胞を保護した
  • 乾癬・ループスなど他の免疫疾患では臨床試験での有効性が示されている
  • 安全性プロファイルは他のJAK阻害薬より良好

❌ まだ分かっていないこと

  • 1型糖尿病の患者さんへの臨床試験はまだ実施されていない
  • どの段階(発症前?発症直後?)に使うのが最も効果的かは不明
  • 長期的に使い続けた場合の安全性や効果の持続期間は不明
  • 既存のインスリン治療との組み合わせ方も今後の課題

つまり、現時点では「とても希望の持てる基礎研究の結果がある」という段階です。今すぐ処方してもらえる薬ではありませんし、「1型糖尿病の薬」として承認されているわけでもありません。でも、科学は確実に前進しています。

⑥ 患者・ご家族へのメッセージ

お子さんが1型糖尿病と診断されたばかりの親御さん、あるいは最近自分が1型糖尿病とわかった方へ。

私も患者のひとりとして、毎日インスリンと向き合いながら生きています。診断を受けたときは、「この先どうなるんだろう」と不安でいっぱいになるものです。その気持ちはとても自然なことです。

でも、医学の研究は確実に進んでいます。今日ご紹介したデュークラバシチニブのような薬が、将来的に1型糖尿病の治療選択肢のひとつになる可能性があります。それはまだ「希望の芽」の段階ですが、確かな芽です。

今できる一番大切なことは、主治医と信頼関係を築き、血糖管理をしながら日々の生活の質を守っていくことです。新しい治療法の情報は、私もこのブログで引き続きお伝えしていきます。

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📚 参考文献

Mima Y, Yamamoto M, Iozumi K. Review of Promising Off-Label Use of Deucravacitinib. Int J Mol Sci. 2025;26(19):9447.

Dos Santos RS, et al. Deucravacitinib, a tyrosine kinase 2 pseudokinase inhibitor, protects human EndoC-βH1 β-cells against proinflammatory insults. Front Immunol. 2023;14:1263926.

Mine K, et al. TYK2 signaling promotes the development of autoreactive CD8+ cytotoxic T lymphocytes and type 1 diabetes. Nat Commun. 2024;15:1337.

※ 本記事は医学論文の内容をもとに一般向けに解説したものです。個別の治療方針については、必ず主治医にご相談ください。本記事の内容は診療の代替となるものではありません。

夜間低血糖は「寝ている間」が一番危ない─CGM時代に知っておきたい最新知識

田中医師の糖尿病ブログ

夜間低血糖について知っておいてほしいこと
— CGM時代の最新情報 —

👨‍⚕️ 田中 恵子
1型糖尿病当事者医師

2024年

こんにちは。田中です。私自身も1型糖尿病とともに生きる医師として、今回は「夜間低血糖」について、できる限りわかりやすくお伝えしたいと思います。どうぞ最後までお付き合いください。

🌙 夜間低血糖とは何ですか?

「低血糖」とは、血液中の血糖値(ブドウ糖の量)が下がりすぎた状態のことです。インスリンを使っている方には、起きているときだけでなく、眠っている間にも低血糖が起こることがあります。これを「夜間低血糖」と呼びます。

📌 これは「珍しいこと」ではありません

1型糖尿病の方を対象にした大規模な研究(DCCT)では、低血糖の発作のうち43%が夜中に起きていたことがわかっています。また、重症の低血糖に絞ると、その55%が夜間に集中し、そのうち半数以上が本人に気づかれていませんでした

なぜ夜が危ないのでしょうか。眠っているときは、身体が「血糖が下がっているよ!」という警戒サインを出しにくくなります。つまり、自分で気づいて対処する力が、昼間よりも大幅に落ちてしまうのです。

🧬 なぜ夜は特に危険なのですか?

身体には、血糖が下がりすぎたときに「助けて!」と叫ぶホルモンたちがいます。アドレナリン(エピネフリン)、コルチゾール、成長ホルモンなどです。これらが分泌されることで、心臓がドキドキしたり、汗をかいたりして、私たちは低血糖に気づくことができます。

ところが、眠りが深まる夜中の3時〜朝7時ごろには、このホルモンたちの働きが特に弱くなります。研究によれば、夜間低血糖の60〜70%はこの時間帯に起きています。さらに、夜の低血糖は昼間の低血糖よりも長く続く傾向があります。

夜間低血糖が起きやすい理由まとめ

  • 眠中は警戒ホルモンの働きが弱い
  • 夜は食事と食事のあいだが最も長い(インスリンが効きすぎやすい)
  • 前日の運動・食事・飲酒の影響が夜にあらわれる
  • 体内時計(ホルモンのリズム)によって夜中〜朝方に感受性が変化する

😔 夜間低血糖はどんな影響を与えますか?

夜間低血糖は、血糖値だけの問題ではありません。身体・こころ・生活のさまざまな側面に影響を及ぼします。

54% 2時間 5〜6%
重症低血糖がある人は認知症リスクがこれだけ高くなる 夜間低血糖による平均的な睡眠不足 40歳未満の1型糖尿病死亡の中で夜間低血糖が原因とされる割合

具体的には、次のような影響が報告されています。

🧠 翌日の認知・集中力への影響

夜間に低血糖があった翌日は、情報処理のスピードが落ちることがわかっています。テストに集中できない、仕事のミスが増える、といったことにつながる可能性があります。

😴 睡眠の質の低下

夜間低血糖はすべての面で睡眠の質を悪化させます。眠りが浅くなる、途中で目が覚める、なかなか寝付けない、長く眠れない——これらすべてが報告されています。

❤️ 心臓・血管への影響

夜間低血糖は心臓の不整脈(心拍の乱れ)と関連していることが示されています。また、低血糖の回数が多いほど、心筋梗塞・脳卒中・死亡のリスクが上がるという研究結果もあります。

👩‍👧 お母さんへ:家族も大きな影響を受けます

9カ国の研究(4,300人の家族が対象)によると、患者さんのご家族の66%が「毎月、低血糖のことを考える」と回答しています。また、夜間の低血糖については、患者さん本人よりもご家族のほうが強く心配する傾向があることもわかっています。それはある意味で当然です——眠っている子どもを心配して、夜中に何度も確認しに行く。その気持ち、医師の私にもよく理解できます。

子どもの夜間低血糖は、お母さんやお父さんの睡眠も直接的に乱します。育児疲れと重なると、本当につらいですよね。そのことをどうか、担当医や糖尿病看護師(CDE)に正直に話してください。

📡 CGM(持続血糖モニター)が状況を大きく変えました

これまでは、低血糖に気づくためには自分でチクっと指先を刺して血糖を測るしかありませんでした(自己血糖測定、SMBG)。しかし眠っている間に自分で測ることは、当然ながらできません。

CGM(持続血糖モニター)の登場によって、状況は劇的に変わりました。CGMとは、皮膚の下にごく細いセンサーを貼り付け、24時間・自動的に血糖値を記録し続ける装置です。

🔍 CGMでわかったこと

ある研究では、高齢の糖尿病患者さんを28日間調べたところ、自己測定で検出された低血糖はCGMで検出された低血糖の約半分しかなかったことがわかりました。つまり、私たちはこれまで夜間低血糖の件数を大幅に過小評価していたのです。

CGMのもう一つの重要な機能はアラームです。血糖値がある数値を下回ったとき、あるいは下回りそうなときに、音や振動でお知らせしてくれます。これにより、眠っていても気づいて対処することが可能になりました。

👨‍⚕️ 田中医師より

私自身もCGMを使っています。夜中に警戒アラームが鳴ることもあります。最初は煩わしく感じることもありましたが、今では夜間低血糖から身を守る大切な仲間だと思っています。慣れるまで時間がかかることもありますが、必ず役に立ちます。

⚠️ CGMにも限界があります

CGMは非常に便利ですが、完璧ではありません。いくつかの注意点をお伝えします。

⚠️ 「圧迫アーティファクト」について

センサーを皮膚に貼っている部分を押しつぶした状態で寝てしまうと、センサー周辺の血の流れが一時的に悪くなり、実際よりも低い血糖値が表示されることがあります。これを「圧迫アーティファクト」と言います。これによって誤った低血糖アラームが鳴ることがあり、繰り返されると「また誤報か」と思ってアラームを切ってしまう「アラーム疲れ」につながります。センサーを貼る場所を工夫することが大切です。担当の方に相談してみましょう。

🤖 自動インスリン投与(AID)システムとは?

医療技術はさらに進歩しています。CGMとインスリンポンプ、そしてコンピューターアルゴリズムを組み合わせた「自動インスリン投与システム(AIDシステム)」が登場しています。

  1. CGMが血糖値を常に測定する
    5〜15分おきに血糖値を自動計測します。
  2. アルゴリズムが次の動きを計算する
    「このままでは低血糖になりそう」「高くなりすぎそう」と予測します。
  3. インスリンポンプが自動で調整する
    必要に応じてインスリンの量を増やしたり減らしたりします。人が何もしなくてよい状況を目指します。

このAIDシステムは、特に夜間の血糖管理において非常に優れた効果を示しています。親御さんが夜中に何度も子どもの血糖を確認しなくても済むようになった、という報告もあります。子どもに対してAIDを使っている家庭では、親の睡眠の改善・低血糖への恐怖の軽減・糖尿病に関するストレスの低下がみられたという研究もあります。

🔮 これからの技術 — AIによる「予測」

現在の研究は「低血糖が起きた後に知らせる」から、「低血糖が起きる前に予測して防ぐ」段階へと進んでいます。

機械学習(AI)を使った予測モデルでは、過去のCGMデータ・運動量・食事のデータなどを組み合わせることで、夜間低血糖が起きる可能性を高い精度で予測できるようになってきています。ある研究では94%のケースで夜間低血糖を事前に検出できたとも報告されています。

🌟 近い将来に期待できること

「今夜は低血糖になりそうです。寝る前に少し補食をとりましょう」とCGMやスマートフォンが教えてくれる時代が近づいています。こうした技術が普及すれば、夜間の不安がさらに減るはずです。

📋 今すぐできること — 実践的なポイント

✅ 夜間低血糖を予防・対処するために

  • CGMを使いましょう。担当医に相談してみてください。
  • 寝る前の血糖値を確認する習慣をつけましょう。
  • 前日に激しい運動をした翌夜は特に注意が必要です。
  • アルコールは夜間低血糖のリスクを高めます。
  • ベッドサイドにブドウ糖タブレットやジュースを常備しましょう。
  • AIDシステムに興味があれば、担当医に相談してみてください。
  • アラームが頻繁に鳴る場合は、設定の見直しをしましょう。「アラーム疲れ」は危険です。

👩‍👧 お母さんへ:あなたの心配は正しいです

お子さんの夜間低血糖を心配して、夜中に何度も確認するお母さんの話をよく聞きます。その献身的な気持ちは、とても大切なものです。でも同時に、あなた自身も眠らなければ、長くは続きません。

CGMのアラームをうまく設定することで、あなたのスマートフォンにも通知が届くようにする機能があります。毎時間起き上がる必要はなくなります。また、AIDシステムを使えば、夜間の自動管理が格段に楽になります。

担当医やチームに「夜が怖い」と伝えてください。あなたの不安は、解決策を一緒に探す入口になります。


夜間低血糖はまだ完全には解決されていない問題ですが、技術の進歩によって確実に管理しやすくなっています。CGMやAIDシステムは、糖尿病とともに生きる人たちの「夜の安心」を取り戻すための大きな力となっています。

私自身も毎晩このセンサーをつけながら眠っています。怖い夜もありましたが、今は以前よりずっと安心して眠れています。皆さんにもそんな夜が訪れることを、心から願っています。

何かご質問があれば、コメント欄やお問い合わせページからお気軽にどうぞ。


田中 恵子
1型糖尿病当事者医師


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参照文献

Kulzer B, Freckmann G, Ziegler R, Schnell O, Glatzer T, Heinemann L. Nocturnal Hypoglycemia in the Era of Continuous Glucose Monitoring. J Diabetes Sci Technol. 2024;18(5):1052-1060. doi:10.1177/19322968241267823

#1型糖尿病 #夜間低血糖 #CGM #持続血糖モニター #AIDシステム #インスリンポンプ #糖尿病ブログ #新規診断

新薬を用いた移植アップデート

みなさんごきげんよう。

 

医師で1型糖尿病の田中です。

 

昨日に続き、新薬を用いたインスリン離脱を目指した治験のアップデートに関してです。(エラドン社より)

 

【要約】

1型糖尿病患者を対象としたシカゴ大学の膵島移植試験で、免疫抑制薬「tegoprubart(テゴプルバート)」を使用した新しい治療法により、移植後4週間以上経過した10名全員がインスリン離脱を達成し、全員でHbA1c 6.0%未満という良好な血糖コントロールが報告されました。この治療では、従来よく使われるタクロリムス系免疫抑制薬を使用せず、移植拒絶や新規HLA抗体形成も認められませんでした。また、腎毒性・高血圧・神経毒性など従来治療で問題となる副作用も報告されず、安全性と有効性の両面で有望な結果が示されています。研究チームは、1型糖尿病に対する「機能的治癒(functional cure)」へ向けた大きな前進となる可能性があると述べています。

 

Eladon社からの報告は以下の内容です。


シカゴ大学における1型糖尿病患者対象の膵島移植試験:テゴプルバートの最新データをEledonが発表

 

2026年3月16日、Eledon Pharmaceuticals は、シカゴ大学医療センターで実施されている investigator-initiated trial(研究者主導試験)における最新結果を発表しました。


この試験では、1型糖尿病患者に対する膵島移植において、免疫抑制薬「tegoprubart(テゴプルバート)」が使用されています。結果は、2026年3月11日〜14日にスペイン・バルセロナで開催された「Advanced Technologies and Treatments for Diabetes(ATTD)」で報告されました。 

 

【試験の概要】

 

このパイロット試験では、長期罹患の1型糖尿病成人患者12名が登録されました。

 


糖尿病罹患期間中央値:約33年
移植前HbA1c平均:約8.0%
全例が同種膵島移植(allogeneic islet transplantation)を受けた


参加者は、カルシニューリン阻害薬を使用しない免疫抑制レジメンの一部として、Eledon社の抗CD40Lモノクローナル抗体「tegoprubart」を投与されました。 

 

【現時点での結果】

 

試験時点で、

・12名全員の登録が完了
・移植後平均経過期間:約8か月

となっています。 

 


さらに、

移植後4週間以上経過した10名全員がインスリン離脱を達成
・10名全員でHbA1c 6.0%未満を達成
・10名の最新HbA1c平均:約5.35%

という結果が報告されました。 

 

【血糖コントロールと膵島機能】

 

データでは、膵島移植後に急速な血糖改善が認められ、移植された膵島の機能は患者全体で安定していたと報告されています。 

 

【安全性について】

 

tegoprubartを用いた免疫抑制療法は、全体として良好な忍容性(tolerability)を示しました。


移植後にみられた免疫抑制関連の副作用については、必要に応じてmycophenolic acidの投与量を減量することで対応可能だったとされています。 


また、

・移植拒絶反応なし
・de novo donor-specific HLA抗体形成なし

という結果も報告されました。 

 


さらに、従来のタクロリムスベース免疫抑制療法で問題となることが多い、


・腎毒性
・高血圧
・神経毒性


についても、今回の試験では認められませんでした。 

 

【Eledon CEOのコメント】

 

EledonのCEOであるDavid-Alexandre C. Gros医師は、


「1型糖尿病患者は、機能的治癒の可能性を何十年も待ち続けてきた」


と述べ、テゴプルバートによる進展に期待を示しました。 


また、

「カルシニューリン阻害薬に関連する毒性を回避しながら、膵島保護を可能にする可能性がある」

ともコメントしています。 


さらに、Eledonは2026年中にFDAと協議を行い、膵島移植領域での承認取得に向けた道筋について協議予定であると述べました。 

 

【Breakthrough T1Dからのコメント】

 

Breakthrough T1D のCEOであるAaron Kowalski博士は、


「この試験でインスリン投与が不要となった患者が出ていることは非常に興味深い」

とコメントしました。 


また、従来の免疫抑制療法より副作用が少ない可能性にも期待を示しています。 

 

【試験資金について】

 

この臨床試験はBreakthrough T1Dによって資金提供されています。


また、The Cure Allianceからも初期支援を受けています。 


さらにBreakthrough T1Dは、


1型糖尿病
慢性腎疾患


を有する患者に対して、カルシニューリン阻害薬を使用しない免疫抑制レジメンとしてテゴプルバートを評価する第2試験への資金提供も決定しています。 

 

【1型糖尿病に対する膵島移植とは】

 

膵島移植は、血糖コントロールを改善し、インスリン依存を減少または消失させることを目的とした低侵襲治療です。


亡くなったドナーの膵臓からインスリン産生β細胞を含む膵島を分離し、小さなカテーテルを通して患者の肝臓へ注入します。


移植された膵島細胞は肝臓内の小血管に定着し、インスリンを分泌します。 


ただし、移植拒絶を防ぐため、移植後は免疫抑制療法が必要になります。 

 

【Eledon Pharmaceuticalsとテゴプルバートについて】

 

Eledon Pharmaceuticals は、生命を脅かす疾患に対する免疫調節療法を開発している臨床段階のバイオテクノロジー企業です。


同社の主要開発薬である「tegoprubart」は、CD40 Ligand(CD40L)に高親和性を持つ抗CD40L抗体です。 


CD40Lシグナルは、自然免疫・獲得免疫の両方で重要な役割を担っているため、非リンパ球枯渇型の免疫調節治療ターゲットとして注目されています。 


Eledonは現在、


腎移植
異種移植
膵島移植
肝移植
ALS(筋萎縮性側索硬化症)


などの領域で研究を進めています。 

前向きな血糖値変動の考え方

みなさんごきげんよう

 

医師で1型糖尿病の田中です。

 

今日は若干の高血糖や低血糖についての私なりの考え方を紹介します。

 

目標は70から180でも、どうしても昇降ってありますよね。

 

特に、大切な場面ほど様々なホルモンが分泌されることで、血糖値のコントロールが難しくなることもあるかと思います。

 

そんな時、同じ血糖値の推移でも「よし! 大成功!」と思えるか、失敗に感じるかで大分気分やその後の考え方が変わりませんか?

 

ならば、基本的には「よし! 成功!」と思えることを目指したいです。(私は低血糖時はかなりマイナス思考になるので、回復後にポジティブに捉えられることを目指しています。)

 

先日、私は大切なミーティングの時に少し頭の回転が遅く感じ、若干の高血糖(200強で上昇中)に気がつきました。重要なディスカッションも続く予定でしたので、アドレナリン分泌も増して血糖値がさらに上がりやすい状態です。ミーティング中は下がりづらいと予想しました。インスリン量は計算上はいいはずでしたが、昼食を急いで食べたのでさらに上がるだろうと予想しました。アドレナリン上昇は数時間続く予定です。

 

そこで、血糖値横ばいから若干の下降を目指して少しだけ追い打ちします。アドレナリンで血糖値が上がる状況はアドレナリンが急に減った時に血糖値が急に下がりやすいです。高血糖ならば正常に近くなり、正常血糖ならば低血糖になりやすい土壌です。

 

何かのタイミングで、血糖値曲線がなだらかでも持続的な低下傾向である旨を確認しました。なので、用意していたフルーツを2切れ(全て)食べて、正常範囲内のうちに若干の補正をかけようとします。

 

ミーティング後半、残すところ10分程度の時に若干の低血糖症状を感じました。それまで活発に発言していましたが、ちょっと私自身のアドレナリン優位度がディスカッション内容以上に感じました。同時に、アドレナリンが入っているにしては頭の切れが少し足りないのです。ちょうど、ディスカッションが終わり、挨拶に移行する頃です。卓上に用意しておいた野菜ジュース(糖質14g)に加えて、ブドウ糖パックを開けて口に入れ、噛み砕いた液を舌の下に溜めておきます。作業中には若干だけ手の震えがあるものの、他者に分かるほどではありません。

 

この間、一瞬のブドウ糖を口に入れる時以外は目線や相槌も自然で普段通りです。

 

実測はできていないので、正確な数値は分かりません。血糖値は60代(mg/dL)だと予想しています。

 

会議内容はバッチリ。

血糖値コントロールもバッチリ。

行動面でも飲食禁ではない場面だったのでOK。

 

しかも、この時はプレドニンという血糖値に大きな影響を与える薬剤を飲んでおり、その血糖値への影響が変わる時間帯での正常以内か低血糖まで行くか読みづらい状況での変動に対応しきれたと自負しておりました。ミーティング後半の終了間際にはアドレナリン分泌も減少したことでしょう。

 

私自身は結構誇らしい心境です。

 

「よし! 会議成功。血糖値のコントロールも上手くやったね。もう少し前に予防的にもう少し補食しておく方がよかったかな? 次に活かそう。」と、とても前向きです。(前回は低血糖までいかず、用意してあったヨーグルトドリンクでちょうどよく補正されました。)

 

会議の場にいた家族に「血糖コントロール上手くいかなかったね」といった感じのコメントを受けました。

 

「え?」

 

平時の代謝に加えて、普段飲んでいないプレドニンと普段と違う一日がかりのミーティング、アドレナリンが活発に分泌される内容、気候変動とその影響が出やすい季節、その上、ミーティング直後から生理が来るというエストロゲンやプロゲステロンの変動も追加された中、目標の70〜180にほぼほぼ収まっている60〜200強って、大大大成功でしょう!

 

家族は低血糖0️⃣、高血糖もミニマムを目指しています。というか、80〜130を目標にしています。私も昔はそうでした。今でも目標や対策は基本的に80〜150くらいですね。けれども、心境は変わりつつあります。

 

そこで強気に伝えます。「インスリン治療していたら、多少の低血糖は必発だよ。軽いものに留めた上、ノーダメージで乗り切れたのはスゴイことだからね。こういうのを成功と呼ぶって覚えておいて」と。(偉そうですね。)

 

何事も改善は可能です。

 

とはいえ、小さな勝利を喜ぶのも大切ですよね。

 

同じ出来事でも、それを成功と捉えるか、失敗と捉えるかは本人次第です。

 

ならば、成功と考えて気分を上げたいですよね。

 

さらに言うならば、全ての失敗はそこから学んで改善すれば成功への後押しとなるでしょう。

 

ならば、仮に失敗があっても、それは今後の向上のための踏み台となることでしょう。

 

(ただし、低血糖中や正常値内でも血糖値の急な変動の最中は気分や考え方も影響を受けやすいです。こういう時のご自身を責めないでくださいね。血糖値が改善した後で気分を切り替えましょう。)

 

今日も安定した血糖値を!

けど、揺れても自分を褒めてあげてくださいね。

 

 

 

 

【1型が治癒?】移植と新・免疫抑制剤の日の出

みなさんごきげんよう

 

医師で1型糖尿病の田中です。

 

お久しぶりです。大分登記が減っており失礼いたしました。

 

今回はアメリカで基礎インスリン投薬すらも不要になる参加者を出している治験の初期の成果と具体的な内容を紹介させていただきます。

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免疫抑制療法を用いた1型糖尿病の“機能的治癒”に関する初の報告

 

米国・シカゴ大学医療センターの臨床試験で、膵島(すいとう)細胞移植と免疫抑制療法を受けた1型糖尿病患者2名が、「機能的治癒(functional cure)」を達成しました。また、3人目の参加者でもインスリン必要量が60%減少し、完全なインスリン離脱が期待されています。


この試験では、Eledon Pharmaceuticals社の新しい免疫抑制薬「tegoprubart(テゴプルバート)」が使用され、移植した膵島細胞の拒絶反応を防ぐ目的で投与されました。 

 

25年以上1型糖尿病と共に生きてきた参加者

 

試験参加者のMarlaina Goedelさんは、25年以上1型糖尿病を抱えて生活してきました。CBS Newsのインタビューでは、長年続く高血糖と低血糖の不安定さに苦しみ、この膵島移植手術に応募したと語っています。


2024年7月17日、医師たちは彼女の肝臓へ膵島細胞を注入しました。その3週間後には外部からのインスリン投与が不要となり、その後数か月が経過した現在も、免疫抑制療法を継続しながらインスリン非依存状態を維持しています。 

 

【免疫抑制レジメン】

 

この臨床試験では、参加者は膵島移植に加えて、


導入療法
・mycophenolate mofetil(MMF)
・tegoprubart


を組み合わせた免疫抑制療法を受けました。


tegoprubartは3週間ごとの点滴静注(IV infusion)で投与されました。


この治療を受けた最初の2名は、移植後にインスリン離脱と正常HbA1cを達成しました。3人目の参加者もインスリン使用量が60%減少し、インスリン離脱へ向かっています。 

 

【膵島生着(Islet Engraftment)】

 

「膵島生着」とは、移植された膵島細胞が肝臓内に定着し、インスリン産生を開始することを意味します。


tegoprubartを使用した最初の2症例では、従来のタクロリムスベースの免疫抑制療法を受けた比較対象患者よりも、膵島生着率が3〜5倍高いと推定されました。


この結果は、tegoprubartによる治療の方が毒性が低い可能性を示唆しています。 


また、参加者では、

・予期しない有害事象
・重症低血糖
・移植拒絶反応

 

は報告されませんでした。 

 

【研究チームのコメント】

 

シカゴ大学医療センター膵臓・膵島移植プログラム責任者であり、本研究の主任研究者の一人である

Piotr Witkowski 医師は次のように述べています。


「30年以上にわたり、腎臓、中枢神経、膵島細胞への毒性や、高血圧・糖尿病リスク増加など、従来治療の副作用を伴わない免疫抑制法を探してきました。」


また、

「tegoprubartは、1型糖尿病患者に対する膵島移植を大きく前進させる可能性のある新しい免疫抑制選択肢である」

とも述べています。 


さらに、Breakthrough T1D の最高科学責任者であるSanjoy Dutta 博士は、

「膵島置換療法はBreakthrough T1Dにとって重要な優先事項です」

とコメントし、タクロリムスを使用しない免疫抑制療法下で患者が再びインスリンを産生していることを励みになる結果だと述べました。 

 

【1型糖尿病に対する膵島細胞移植とは】

 

膵島細胞移植は、健康な膵島(インスリンを作るβ細胞)を移植することで血糖コントロールを改善する、低侵襲な治療法です。


一部の症例では、亡くなったドナーの膵臓から膵島細胞を分離し、小さなカテーテルを通して患者の肝臓へ注入します。


移植後、膵島細胞は肝臓内の血管に定着し、インスリンを分泌します。


ただし、移植拒絶を防ぐために、免疫抑制療法が必要となります。 

 

【免疫抑制療法について】

 

免疫抑制療法とは、体の免疫反応を弱める薬物治療です。


目的は、免疫システムが移植された臓器・細胞・組織を攻撃することを防ぐことです。 


一方で、免疫抑制薬には以下のようなリスクがあります。


・感染症にかかりやすくなる
・一部のがんリスク上昇
・高血圧
・コレステロール異常
・消化器症状

など。 

 

【Eledon Pharmaceuticalsについて】

 

Eledon Pharmaceuticals は、免疫学分野に強みを持つ臨床段階のバイオテクノロジー企業です。


移植臓器の拒絶反応予防や、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの疾患治療の研究を行っています。


同社の主力開発薬であるtegoprubartは、抗CD40L抗体です。この薬剤は、移植拒絶に関わる免疫細胞間のシグナル伝達を調整する働きがあります。 

 

【研究概要】

 

今回の試験では、tegoprubartを用いた膵島移植を受けた1型糖尿病患者3名が「機能的治癒」を達成したと報告されました。


2名は、従来使用されるタクロリムスなしでインスリン離脱を達成しています。安全性と有効性の面でも、有望な結果が示されました。 

 

【症例1】

 

42歳女性


HbA1c:8.4% → 6.0%(90日以内)
インスリン量:80単位/日 → 16単位/日


16週後に2回目の移植を受け、その後インスリン離脱を達成。HbA1cは5.4%となりました。 

 

【症例2】

 

30歳女性


移植4週間後にインスリン中止。


HbA1cは8.5%から5.8%へ改善しました。 

 

【症例3】

 

37歳男性


移植3日後に退院。


インスリン量は90単位から29単位へ減少しました。 

 

「すべての道はローマに通ず」

 

記事では、「All roads lead to Rome(すべての道はローマに通ず)」という表現を用いて、1型糖尿病治療研究の多様なアプローチについて触れています。


技術革新、研究、そして新しい治療法の開発により、1型糖尿病の治癒へ一歩ずつ近づいている――そのような希望が語られています。 

 

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英文記事はこのURLから読めます。

https://www.type1strong.org/blog-post/first-t1d-functional-cure-using-immunosuppressive-therapy

 

【医学文献】低血糖になりづらい運動

ごきげんよう

 

1型糖尿病患者で医師の田中です。

 

高強度インターバルトレーニング(HIIT)で生活の質を改善を示した文献の内容をご紹介します。

 

【はじめに】

 

1型糖尿病の方にとって、運動は健康管理の大切な柱の一つです。しかし、「運動後に低血糖になるのが怖い」「忙しくて時間がない」「なかなか続かない」といった理由で、運動を避けてしまっている方も多いのではないでしょうか。

今回ご紹介する研究では、「高強度インターバルトレーニング(HIIT)」という運動方法が、1型糖尿病の方の生活の質や睡眠の質、運動への楽しさを大きく改善したことが明らかになりました。特に注目すべき点は、低血糖のリスクが非常に低く、短時間で効果が得られるという点です。

この記事では、中学生の皆さんにも理解できるように、この研究の内容をわかりやすくお伝えします。

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✅ HIITとは?なぜ1型糖尿病の方におすすめなのか

 

高強度インターバルトレーニング(HIIT)とは、短い時間の激しい運動と休憩を繰り返す運動方法です。例えば、30秒間思いっきりエアロバイクをこいで、1分間軽く休む、これを何回か繰り返すイメージです。

この研究では、1型糖尿病で運動習慣のない19人の成人(平均年齢37歳)が参加しました。参加者は週3回、6週間にわたってHIITを行いました。具体的には、エアロバイクで30秒間の高強度運動と1分間の軽い回復運動を、最初は12回、徐々に20回まで増やしていきました。

なぜHIITが1型糖尿病の方に向いているのでしょうか。それは、通常の持続的な有酸素運動と違って、HIITは無酸素運動が中心になるため、運動中や運動後の低血糖が起こりにくいからです。研究でも、198回の運動セッション中、軽い低血糖はわずか3回(1.5%)しか起こらず、重い低血糖や夜間低血糖は一度も起こりませんでした。しかも、この軽い低血糖も、少し休んで糖分を摂るだけですぐに回復しました。

さらに、HIITは1回の運動時間が短く済むという利点もあります。忙しい現代人にとって、「時間がない」という運動の障壁を乗り越えやすい方法なのです。

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✅ 生活の質と睡眠の質が大きく改善

 

この研究で最も注目すべき結果の一つは、生活の質(QOL)の改善です。HIITを行ったグループでは、身体的な機能や社会的な活動の面で大きな改善が見られました。具体的には、身体機能が約2%、役割機能(日常の活動への影響)が80%以上、全般的健康感が約17%、社会生活機能が34%も向上しました。

1型糖尿病を持つ方は、血糖値の管理や低血糖への不安から、ストレスや不安を感じやすく、それが生活の質に影響を及ぼすことが知られています。HIITによってこれらの面が改善されたことは、非常に意義深い結果と言えます。

また、睡眠の質についても驚くべき改善が見られました。HIITグループでは、睡眠の質を測る指標が21.4%も改善し、「悪い睡眠」から「良い睡眠」の範囲に移行しました。1型糖尿病の方は、一般の方に比べて睡眠時間が短く、睡眠の質が低いことが知られていますが、HIITによって夜間の低血糖が予防され、夜中に目が覚めることが減ったことが、この改善につながったと考えられます。良い睡眠は、血糖コントロールや心身の健康にとって非常に重要です。

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✅ 運動が楽しくなり、続けたくなる

 

運動を続けるためには、「楽しい」と感じることや、「自分からやりたい」という気持ちが大切です。この研究では、運動の楽しさと運動への動機づけについても調べられました。

HIITを行ったグループでは、運動の楽しさが7%向上し、内発的動機づけ(自分が楽しいからやる)が13%増加しました。一方で、外発的動機づけ(誰かに言われたからやる)は34.7%減少し、無動機(やる気がない状態)は46.6%も減少しました。

つまり、HIITを行うことで、「誰かに言われたからやる」のではなく、「自分がやりたいからやる」という前向きな気持ちが強くなったのです。これは運動を長く続けるために非常に重要な変化です。

なぜHIITは楽しいと感じられるのでしょうか。研究者は、以下の理由を挙げています。まず、参加者は運動の時間を自分で選べるなど、ある程度の自由度がありました。次に、HIITは適度にきつい運動ですが、やり遂げられるレベルなので、「できた!」という達成感が得られます。さらに、参加者同士が交流することで、社会的なつながりも生まれました。これらの要素が組み合わさって、運動への楽しさや意欲が高まったと考えられます。

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【まとめ】

 

この研究から得られた重要なポイントをまとめます。

- **安全性が高い**: 6週間のHIITプログラムで、重い低血糖は一度も起こらず、軽い低血糖もわずか1.5%のみ。夜間低血糖も発生せず、1型糖尿病の方にとって安全な運動方法であることが確認されました。
- **生活の質が向上**: 身体機能、日常生活での役割、全般的な健康感、社会生活機能など、生活の質の様々な面で改善が見られました。特に、日常生活での役割機能は80%以上も向上しました。
- **睡眠の質が大幅改善**: 睡眠の質が21.4%改善し、「悪い睡眠」から「良い睡眠」のレベルへと改善。夜間低血糖が起こらなかったことが、この改善に貢献したと考えられます。
- **運動が楽しくなる**: 運動の楽しさが7%向上し、自分からやりたいという気持ち(内発的動機づけ)が13%増加。やる気のない状態が46.6%も減少しました。
- **時間効率が良い**: 短時間で効果が得られるため、「時間がない」という1型糖尿病の方が運動を避ける主な理由を克服できます。
- **具体的なプログラム**: 週3回、エアロバイクで30秒の高強度運動と1分の休憩を繰り返す。最初は12セットから始め、徐々に20セットまで増やしていく方法が有効でした。
- **インスリン調整不要**: この研究では、インスリンの量や炭水化物の摂取について特別な調整をしなくても安全に運動できました。これは実生活での実践しやすさにつながります。

1型糖尿病を持つ方にとって、運動は心臓や血管の健康を保ち、血糖コントロールを改善するために非常に重要です。しかし、低血糖への不安や時間の制約、モチベーションの維持といった課題があることも事実です。

高強度インターバルトレーニング(HIIT)は、これらの課題を解決する可能性を持つ運動方法です。短時間で効果的、低血糖のリスクが低い、そして何より楽しく続けられる──この研究は、HIITが1型糖尿病の方の生活を豊かにする新しい選択肢になり得ることを示しています。

もちろん、運動を始める前には必ず主治医に相談し、自分の体調や血糖コントロールの状態に合わせて計画を立てることが大切です。また、運動前後の血糖測定や、低血糖時の対応についても、医療チームとしっかり確認しておきましょう。

この記事が、1型糖尿病の方が自信を持って運動に取り組むきっかけになれば幸いです。

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**参考文献**: Alarcón-Gómez, J., et al. (2021). Effect of High-Intensity Interval Training on Quality of Life, Sleep Quality, Exercise Motivation and Enjoyment in Sedentary People with Type 1 Diabetes Mellitus. *International Journal of Environmental Research and Public Health*, 18(23), 12612.

 

 

胃腸炎と血糖値

ごきげんよう!

 

1型糖尿病患者で医師の田中です。

 

今日は体調不良時の血糖値の変動について書かせていただきます。

 

みなさんは食事がとりづらい時や食事が食べれても十分吸収されていない時はどのようにしておられますか?

 

普段と血糖値の変動が変わりやすいから、体調不良の時をシックデイ(シック=病気、デイ=日)と呼び、このような場合のインシュリン量を変える場面に関してや食べれない時にも糖分を含む飲み物を飲むよう主治医からの指示・指導が行われていることが多いかと思います。(食べられない時にも基礎インシュリンは必須なので、必ず医師の指示通り打ちましょう。)

 

胃腸炎というと、いくつかのパターンがあるかと思います。

 

1) 嘔吐

 

2)飲食困難

 

3) ある程度飲食できるが量が少ないか下痢で出てしまう

 

4) 軽症でそこまで違和感が強くない

 

一般的に困ったと頭を抱えるのは①〜③のパターンが多いかと思います。

 

飲食できないけど、基礎インシュリンを打っていると、体調不良ではない時は低血糖リスクが上がりますよね。だから、絶飲食はインシュリン治療中は大敵です。

 

しかし、感染症などの体調不良時には高血糖になりやすく感じませんか?

 

これにはいくつか要因がありますが、身体が何かと闘っていたり、非常に頑張っている時には様々なストレスホルモンが分泌されます。血糖値を下げるためのホルモンはインシュリンだけですが、ステロイドもアドレナリンも、その他様々なホルモンが血糖値を上げます。

 

だから、体調不良の時には血糖値が上がりやすいことがあるのです。

 

一方で、消耗することは糖分を消費する場合もあるかもしれません。一日中何度も走ってトイレに駆け込んでいたら、少しだけ運動量が増すかもしれません。他にも、様々な消耗する要因はエネルギーである糖質を消費します。

 

すると、平時の基礎代謝で量を決めている基礎インシュリンの需要が変わるかもしれません。

 

また、インシュリンには血糖値を下げる効果だけではなく、直ぐに使い切らない食事で摂取した糖質を肝臓にグリコーゲンとして貯えておくのを促す機能もあります。

 

すると、自分のインシュリン分泌が無い・少ない1型糖尿病患者においては、沢山インシュリンを分泌している方々よりもブドウ糖に変換できる肝臓の著蔵が減っている場合もあります。このようなケースは低体重の方や糖質制限をしている方で多い傾向です。現代ではしっかりインシュリンを打って、しっかり食べる生活が推奨されているので、このような傾向は食事制限が厳しかった時代よりは緩和されています。しかし、生活習慣やインシュリン量には個人差があります。

 

もしも貯蓄されている直ぐに糖分として使えるエネルギーのストックが少ないと、シンクデイの際に十分な飲食ができないか、代謝の変化で必要なエネルギーが増えた際の身体が使える糖質が足りない可能性も存在するでしょう。すると、低血糖リスクが増す可能性も場合によっては上がることもあるかもしれません。

 

このように、体調不良時は普段よりも血糖値が上がる要因と血糖値が下がる要因の両方が混在しているとも考えられますね。

 

だから、普段よりも基礎インシュリンが多く必要になるけれども、糖分が摂取できないと低血糖も場合によって起こしやすいことがあります。

 

このような場合の基礎インシュリン量を変えて打つ指示や食べられない時にも糖分を含む飲み物を飲むよう主治医からの指示・指導が行われていることが多いかと思います。(食べられない時にも基礎インシュリンは必須なので、必ず医師の指示通り打ちましょう。)

 

ここで、胃腸炎のトリッキーさが入ってきます。飲食した分のインシュリンを投薬後にそれを吐いてしまう、飲み食いした分のインシュリンを投薬後に吸収が阻害されているから血糖値が上がらずに体外へと糖分が流れ出てしまう、そもそも飲食できないから基礎代謝やホルモンが変化して消耗度合いも変化しているけれども、糖分を入れて血糖値を調整することができないといった現象が起きるかと思います。

 

全く飲食できない時には、かかりつけ医療機関を受診してくださいね。

 

ここまでは自覚症状がある時のことを書きましたが、感染性胃腸炎も重症度が千差万別です。また、感染症じゃない腸の症状をきたす疾患もありますよね。寒い時はお腹を下しやすい体質の方もいますし、乳製品や小麦製品を飲食するとお腹を下しやすい方もいます。乳糖不耐症やセリアック病ですね。

 

他にも、潰瘍性大腸炎やクローン病など、自己免疫機序で炎症があり、様々な症状がある方々もいます。バセドウ病は腸の疾患ではありませんが、代謝が変化する上、下痢などの症状が出る方もおられます。

 

様々な疾患が思い当たる要因なく、場合によっては自覚症状が強くなる前に血糖値への変動を及ぼす場合があります。

 

すると、シックデイだと気がつかずにシックデイとなり、代謝が変化したり、吸収が阻害されて血糖値が上がりづらくなったりしてしまっているかもしれません。そして、軽症だとこのような状態だと気がつかず、普段と同じインシュリン投薬量で高血糖や低血糖になりやすくなってしまうこともあるかもしれません。

 

特に、季節の変わり目は様々な体調の変化が起きやすいです。

 

普段よりもやけに血糖値のコントロールが難しく感じる時には、一瞬止まって、その他の体調に変化があるかも考えてみてくださいね。

 

体調の変化が生じた際は適宜糖質の摂取量やインシュリン量を主治医の指示通りにコントロールしながら、早め早めにかかりつけ医療機関にご相談ください。

 

特に、夏発症した方は秋冬に初めてのシックデイを経験しやすい季節かと思います。

 

「これくらいのことで連絡してもいいのかしら?」とか「これくらいのことで受診してもいいのかしら?」と思うこともあるかもしれませんが、備えあれば憂いなしです。

 

初めてのことは分からなくて当たり前なので、相談が必要ないのに聞いてくれる方が、我慢して大変になるよりもありがたいです。

 

また、1型糖尿病との共存歴が長い方も様々な予期せぬ事態や自力でどうにもならない事態に遭遇するかと思います。「できるはず」や「知っているはず」と構えすぎなくて大丈夫ですからね。

 

お気軽にご相談ください。

 

もちろん、早めの相談も大変になった時の相談も大歓迎です。大変な状況や体調は患者さんやご家族の責任ではありません。気に病まずに医療機関を頼ってくださいね。

 

今日も安定した1日が過ごせますように。

 

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